『人形の傷跡:姉の謎を追うサイコホラー』(Switch/Steam)の感想と評価です。
本作は1998年にPCで発売された『人形の傷跡』のリメイク作品。
ホラー要素とサスペンス要素が上手く混じり合った質の高いノベルアドベンチャーゲームです。
せっかく発売日に購入したのに、アップデートでセーブデータが消えたため怒りのあまり放置していました。笑
1年以上経ちほとぼりが冷め、データが消えないようアプデされていると聞いて、ようやく最後までプレイ。
2013年頃にプレイしていたアプリ版もスマホの小さい画面では文字を読んでられず放置していたことを考えると、このゲームをクリアするのに10年以上かかったことになります。
という経緯もあり、全然ボリュームの多くないゲームなのに、エンディングまで行ったときは達成感がありました。良質な短編小説を読んだ後のような心地よい気分も味わえていますし、本当にプレイしてよかったです。
ノベル系アドベンチャーが好きな方はぜひプレイしてみてください。
今ならセーブデータは消えませんからね。笑
プレイ時間:5時間
あらすじと概要
東京の大学院に通う姉からの一切の連絡が途絶えた。心配になった妹の上条明日美は、姉の安否を確かめるべく、単身、上京する。しかし、姉の研究室、アパートには、姉のいた一切の痕跡が無くなっていた。途方に暮れる明日美。
一体、姉の身に何が起こったのか……?
姉を探し出す強い決意をした明日美。しかし、彼女は自分の身に迫りつつある恐怖を知る由もなかった。
「姉の行方」が重要なポイントとなるシナリオです。
姉は自ら失踪したのか、何か事件に巻き込まれたのか、あるいは、はじめから姉なんていなかったのか…。
今回Switchでリメイクされたことによって、非常に快適にプレイできるようになっています。
間違った選択肢を選ぶと殺されてゲームオーバーになりますが、その要因となった選択肢まで戻してくれるのです。
選択ミス=ゲームオーバーのゲームは全部このシステム採用してほしいと思うくらい楽でした。
選択肢でストーリーが変化するゲームではない場合、ただの徒労ですからね。最後にセーブした場所から戻るなんて。
どこが間違いだったのか、何をすればよかったのか、などを模索する楽しみはありません。
が、詰まることなくサクサクと読み進めていけるのは、「シナリオを読ませたい」ゲームにおいては必須事項でしょう。
セーブデータが消えたことを除けば、非常にユーザーフレンドリーなゲームとなっています。
ストーリー、ホラー要素、サブタイトルについて
ミステリーではなくサイコホラー
このゲームはミステリーではありません。サイコホラーADVです。
ゲーム内のどこにも書いてないから気づいてませんでしたが、任天堂の商品ページ行ったらちゃんと書いてたんですよ。「人形の傷跡:姉の謎を追うサイコホラー」って。
こんなサブタイトル、ゲーム内には一切表記がありません。なぜ商品ページだけには書いてあるのでしょうか?
ミステリーなのかホラーなのか分からない状態でプレイしたかったです。
どっちに転ぶのか分からないのが最高なのに、予想が付かないからこそあれこれ考えながらプレイできるのに、ホラーだと確定してしまったらすべて台無しではないですか…。
非常に残念な気持ちになりました。
途中までは色々と予測しながら読んでいたんですけどね。無意味でした。
はあ、なんでこんなサブタイトル足したんでしょうか…。
ホラー要素はなかなかに気持ち悪い
本作はサイコホラーADVですが、ホラー表現のON/OFFができます。
自ら名乗っている余計な付け足しを自ら削除する機能があるのです。
余計だと感じているから削除できる機能を備えた?
ならばなぜにサブタイトルに「サイコホラー」を入れてしまった?
正直、意味不明です。
主人公である明日美のメンヘラムーブと髪型が相まって、早い段階で違和感はありました。
「これってもしかしてミステリーではないんじゃ…?」
まあ、サブタイトルで確定してたんですけどね。
ミステリーかと思ってたらホラーだったパターンよりも、ホラーかと思ってたらミステリーだったパターンのほうが絶対に良いのに。
序盤のホラー要素はなかなかに気持ち悪いです。サイコホラーと名乗るだけあります。
中盤以降からその要素はなくなりますが。
うーん、ますます「姉の謎を追うサイコホラー」の必要性が分かりませんね。
文章は読みやすい
サブタイトルはともかく、文章のクオリティは非常に高いです。
スリルを感じさせるシーンはそれが明確に伝わってきますし、主人公の不安定な心情も的確に描写されています。平易で読みやすく晦渋な表現もありません。
後半になるにつれて、主人公以外の人物に魅力が感じられるようになるのも、ちゃんとノベルゲームしてました。
序盤のサイコホラー要素が気持ち悪すぎるために思い違いが起こりますが、ようやく本来の姿に戻ったかのような気分にさせてくれます。
しかもそれは、少しずつ謎が明らかになり主人公のやるべきことが見え始めたタイミングと合致しているのです。ゲーム全体に対する印象も途中から変わってきます。
「ミステリーかと思いきやホラーだったけれど、やっぱりミステリーでもなくホラーでもなく、サスペンスとも少し違う。ああ、そうだ。この感覚は<少年漫画感>だ」
そんな気持ちになるストーリーへと変貌します。
ネタバレになるので内容には触れませんが、総合的に考えても、確実にサブタイトルいらなかったですね。笑
逆にホラーノベルを読みたかった人はがっかりしたことでしょう。
洋画の日本版が訳の分からないタイトルに改変されるのはあるあるだと知っていましたが、まさかゲームでもあるとは…。
リメイクの追加要素
リメイク版では、ゲームオーバーになっても原因となった選択肢までヒント付きで戻してくれる機能に加え、クリア後要素として「ザッピングシナリオ」が追加されています。
ザッピングシナリオは、明日美以外の登場人物視点でストーリーを追う話です。
このおかげで、本編内では全くなかった各人物の掘り下げにより、物語に奥行きを感じられるようになっています。
すばらしい追加要素だと思いました。
エンディングを迎えた後なら各キャラクターの役割はわかっているので感情移入できますしね。
他の人の視点からすると「こうだったのか」「こう見えていたのか」という独特の空気感。
なんと言い表せばよいのか適切な言葉が見つかりませんが、それは非常に物悲しく感じられます。
一方向の視点ではそう見えていたとしても、相手からは全く違うように捉えられている、この感覚。
日常生活でも大いによくあることだし、人間関係のほとんどはそう。自分が思っているように、自分のことを相手は見ていないという事実。
このすれ違い。
どれだけ人類が進歩しようとも、この感覚だけは共有できません。
物悲しくも虚しくも情緒的で、これこそ「文学」だなと思えます。
文学にのみある侘しさを感じられます。
そういえば、久しぶりにこの感覚を味わいました。
文章のクオリティが高くなければ決して起こりえない現象です。
短いシナリオにも関わらずここまで余韻を感じさせてくれるとは名作だと言う他ありません。
24年ぶりにリメイクされるだけあります。追加コンテンツも申し分なしでした。
ほんと、最初にデータが消えたりしなければなあ…。
以下、ネタバレ含む感想
幽霊の扱い方が上手い作品
今作はまさかの「幽霊の扱い方が上手い」作品でした。
科学や研究というものに焦点を当てながら、霊や魂の神秘性を根源のテーマにしています。
相反するかに思える科学と幽霊を同じフィールドに出すには、綿密な計画(プロット)があってこそ。
少し行き違えば、あっという間に白ける陳腐なストーリーと化してしまいます。
この「幽霊の扱い」については、私がいつもホラー作品のレビューで書いていますが、これを成し遂げている作品は例外なく名作です。今のところ、幽霊の扱い方が上手かった作品に外れはありません。
今回初めてそれをゲームで表現してみせた作品に出会えました。
インディーで安価なうえに、セーブデータは消えるし、変なサブタイトル付いてるし、物語そのものには全く期待していなかったのですが、本当にまさかの作品です。
単なるホラーノベルだと侮らずにプレイすべきゲーム。
サブタイトルを消して、序盤のホラー表現を減らせば、より多くの人にプレイしてもらえるのにもったいないですね。
先見の明のあるシナリオ
この作品が今になってリメイクされた理由が分かります。
オリジナル版は1998年。
ちょうどクローン羊のドリーなどが話題になっていた頃と重なります。当時もタイムリーでしたが、今またタイムリーとなっているのです。
「クローン人間を作れる」
ここまで来てしまったら、もう科学は終点と言っても過言ではありません。
倫理的にとか道徳的にとかを超越して、神の領域に踏み込んでいる。そう考えられてもおかしくないレベルです。
そして、現在。
AIの目覚ましい進歩を目の当たりにする中、一時終わりを迎えるかに見えた人類の科学に新たな変革が来ています。それは「人間を複製できる」から「人間がいらなくなる」への変化です。
ありとあらゆる作品でこのテーマは問答されてきました。
私自身そういった作品に触れてきましたし、本やネットでも情報収集はしているので人よりは多少詳しいはずです。
だからこそ、本作の先見の明のすばらしさには驚かざるを得ません。
ホラー描写を交えつつ、時代の最先端を取り入れ、かつ、霊や魂などの科学を超越した要素を含み、さらに、想像の余白を残し、うまく作品としてまとめる。
これらの条件をクリアしている作品にはなかなか出会えるものではありません。
しかもきちんと、ノベルゲーム特有の最初と最後でキャラクターの印象が全く違うものになる現象(今回で言うと「文学的侘しさ」)も体感できますしね。
総評『人形の傷跡:姉の謎を追うサイコホラー』
発売日に買ったプレイヤーにこの仕打ちか…と思わせるセーブデータ消失事件があり、第一印象は最悪でした。
「主人公の髪型もっさりしすぎだろ。今風にリメイクしろよ」
「あとどう見ても高校生くらいにしか見えないけど?」
「どうせメンヘラ女の妄想ホラーに違いない」
などと捨て台詞を残し1年以上放置。笑
しかし、眠る前に横になってプレイするのに適したゲームを探していたところ、本作を買っていたこと思い出し仕方なく始めたのでした。
うーん、やっぱりバグはよくないですよ。
特にデータが消えるバグは絶対にあってはダメですよ。
それまでやったこと・費やした時間が無になるなんて、正直、狂ってますから。
少なくともこの時代に起こっていいバグではないです。
バグ以外にも、死んだらまたやり直し系のゲームが嫌いなのも、幼少期にドラクエのぼうけんのしょが消えたトラウマを引きずってるからかもしれません。
実際、何十時間もかけたデータが消えるなんて鬼畜の所業ですよ。
もし、はぐれメタルを仲間にしていてそのデータが消えたら?発狂していたでしょう。
昔のドラクエのデータが消えるのはもはや様式美ですから、データが消えることによって自然とゲーム離れを起こす役目を担っていたとも言えますけどね。
いつまでもゲームなんかやるな、外に出ろ、大人になれ!そういうメッセージがあったのかもしれません。(どこかで聞いたな、これ…)
ゲームを作ってる奴がそれ言ってたらぶん殴りたくなりますが。
ともかく、ゲーム業界にはデータが消えるバグだけは絶対に何があろうともあってはならないことだという共通認識をもってもらいたいですね。
刑法に定めてもいいくらいですよ。データが消えるバグを発生させた者は、全プレイヤーの消えたデータの総プレイ時間分の懲役に処する、とか。笑
何の話をしていたか分からなくなりましたが、
本作『人形の傷跡:姉の謎を追うサイコホラー』は、データ消失という最悪の事件がありながらも、最終的にはプレイしてよかったと思えるほどのクオリティだということです。
手軽にプレイできるノベル系アドベンチャーを探している方におすすめします。
以上、『人形の傷跡:姉の謎を追うサイコホラー』のレビューでした。
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