クトゥルフ神話で知られるH・P・ラヴクラフトの作品群にインスパイアされた操作アドベンチャー『The Sinking City Remastered』のレビューです。
不気味な世界観と街を歩き回る地道な捜査は、陰鬱で派手さはなく、ゲームとしての面白みには欠けるところがあります。
しかし、本作に包含された“何とも形容しがたい魅力”にハマってしまいました。
クトゥルフ神話を知らなくても、この世界を適切に読み解ければ、忘れがたいゲーム体験となるかもしれません。
プレイ時間:40時間(プラチナトロフィー取得まで)
プラットフォーム:PS5、Steam
ラヴクラフト世界を土台にした、1920年代の捜査アドベンチャー
『The Sinking City Remastered』は、H・P・ラヴクラフトの作品群に強く影響を受けた世界観を持つ、1920年代が舞台のアドベンチャー&捜査ゲームです。
プレイヤーは私立探偵チャールズ・リードとなり、海に沈みかけた街オークモントで発生する数々の怪事件を追いながら、この街そのものに潜む異様な真実へと迫っていきます。
クトゥルフ神話の要素は随所に見られますが、物語の理解に専門的な知識は必要ありません。ただし、この独特な世界観を事前に知っていると、街に暮らす人々や異形の存在をより自然に受け入れられ、没入感が高まるのは確か。
おすすめは、田辺剛氏のコミカライズ作品です。作品にマッチした重厚な画風が不気味な世界に浸らせてくれます。
ゲーム内に登場する魚のような見た目のインスマス人も、この漫画を読んでいれば違和感なくすんなり受け入れられるでしょう。(ほんと、読んどいて良かった…笑)
ホラーよりも「捜査」が主役のゲームデザイン
一見するとクトゥルフ神話を題材にしたホラーゲームのように思えますが、本作の本質は「捜査」にあります。
化け物との戦闘やサバイバルが主軸なのではなく、証拠を集め、状況を整理し、自分の頭で推理し、解釈を下すことがゲームプレイの中心に据えられています。ジャンルとしてはホラーでありながら、体験としては探偵アドベンチャーに極めて近い作品です。
クエストには明確な唯一の正解があるわけではなく、証拠の組み合わせ方や解釈によって結末が変化することもあります。プレイヤーの判断そのものが物語を形作る(分岐していく)点が、本作の大きな特徴です。
不親切な導線と、徹底的に「歩かされる」探索
いわゆるオープンワールドゲームのように親切なナビゲーションは用意されていません。目的地は地図に表示されず、住所や手がかりをもとに自分で場所を特定し、印をつけて探索する必要があります。
証拠も非常に見つけにくく、隅々まで調べなければ見落としてしまいます。さらに、過去の出来事を時系列に並べ替える操作も分かりにくく、何度も現場を行き来するのが面倒になってくることも多々ありました。
謎解きパズルのようなものはほとんどなく、とにかく“足で稼ぐ”捜査が延々と続くのです。
この構造はメインクエストでもサイドクエストでもほとんど変わらず、正直なところ単調さや疲労感を覚える場面もあります。しかしその反面、「自分で捜査している」実感は非常に強く得られました。
歩いているだけで高揚する、オークモントの街並み
何より印象的なのは、オークモントという街そのものが持つ、言葉にしづらい魅力です。
グラフィックは非常に美しく、1920年代の街並みが精緻に表現されています。水没した道路、荒れ果てた建物、人気のない通りを歩いているだけで、ほのかな高揚感がありました。
それはまるで、台風の日のような非日常に足を踏み入れている感覚に近いかもしれません。日常ではない、どこか不穏で、しかし妙に胸が高鳴るあの感覚。
『The Sinking City Remastered』は、その感覚をゲーム体験として見事に再現しています。歩き回る時間が長いにもかかわらず、街を移動すること自体が苦にならないのは、この独特の雰囲気があるからでしょう。
戦闘は最小限、しかしSAN値は確実に削られる
怪物との戦闘は存在しますが、あくまで捜査の邪魔をする存在を排除する程度の位置づけ。廃屋や道中に現れる異形の怪物は、恐怖の演出であると同時に、チャールズの正気度を削る役割でしかありません。
しかし問題なのは、画面効果や幻覚演出も相まって、とてつもなく酔いやすく、主人公だけでなくプレイヤーの正気度も削ってくること。
意図的にこの仕様にしているのか、偶然なのか分かりませんが、慣れないうちは確実に3D酔いします。主人公の姿および上下動を注視しないようにプレイしてください。
とはいえ、そのおかげで世界観にふさわしい精神がじわじわと侵食されていくような感覚が味わえるのは喜ぶべきなのかもしれません。ホラー演出に派手さはなく、戦闘もスパイス程度のものでしかありませんが、プレイ中はじわりじわりと確実にプレイヤーのSAN値を削ってきます。
これは本作でしか得られない唯一無二の体験と言えるでしょう。
有能で理性的な主人公、チャールズ・リード
個人的に本作で最も魅力に感じたのは、主人公のチャールズです。
彼は分りやすいヒーロー(いわゆる名探偵)ではありませんが、「有能な大人」を非常に的確に描いた人物。
言動は常に真っ当で理にかなっており、街に来たばかりでありながら名士に対しても物怖じせず諫言できる胆力を持っています。
プレイヤーの選択次第では冷酷な判断を下すこともできますが、それすらも理屈に基づいたものとして成立させてくれるのはチャールズのまともな思考のおかげです。
異形の怪物、おぞましい幻覚や精神的圧迫の最中でも探偵業を遂行し続けられるのは、彼の強靭な精神力と意志の強さがあってこそでしょう。
ゲームとしては地味かもしれませんが、まさに大人向け作品にふさわしい主人公であり、「主人公」とはこうあるべきだと感じさせてくれる存在だと言えます。
続編でも彼が続投するようなので、今から楽しみですね。
総評:人を選ぶが、刺さる人には深く残る“探偵体験”
『The Sinking City Remastered』は、決して万人向けのゲームではありません。
分かりにくい導線、見つけづらい証拠、何度も現場を行き来させられる探索、単調になりがちな捜査の流れ、派手さのない戦闘…。いわゆる“遊びやすさ”や“親切さ”を期待していると、かなりの確率で戸惑い、疲れてしまうでしょう。
しかしその不便さこそが、本作を他にはない魅力のある作品にしている要素でもあります。
自分で地図に印をつけ、自分の足で街を歩き、自分の目で証拠を探し、自分の頭で出来事を整理し、自分の判断で結末を選ぶ(変えられる)。この一連の流れは、他のゲームではなかなか味わえない、純度の高い「探偵体験」です。
加えて、ラヴクラフトにインスパイアされた異様な世界観、SAN値を削る演出、そして何より、歩いているだけで高揚感を覚えるオークモントの街並みが、この体験を強く印象づけてくれます。さらに、理性的で有能な主人公チャールズの存在が、物語全体に芯を通しており、大人向けの作品としての説得力を与えています。
テンポの良さや分かりやすさを求める方、アクションや派手な展開を期待する方には、正直おすすめできません。
一方で、雰囲気を味わいながらじっくりと捜査に没頭したい方、ラヴクラフト的世界観が好きな方、そして「探偵として街を歩く」体験そのものに価値を見出せる方にとっては、非常に深く刺さる作品となるはずです。
快適ではない。親切でもない。けれど、忘れがたい。
『The Sinking City Remastered』は、そんな言葉がぴったり当てはまる、独特の個性を持った捜査アドベンチャーゲームです。
セール時には1,000円未満になっていますし、この世界観に惹かれるならやってみても損はないでしょう。2026年には続編も発売するみたいですしね。
以上、『The Sinking City Remastered』のレビュー(感想と評価)でした。











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