スリル楽しめるサイコサバイバルサスペンス漫画『Thisコミュニケーション』。
ジャンプでこんな漫画が連載されていたのかと驚きを隠せないほど、自分好みの展開をこれでもかと見せつけてくれる作品です。
『デスノート』などの心理戦が繰り広げられるサスペンス、あるいは、頭のイカれたサイコパスが活躍するサイコホラーが好きな方なら間違いなく好きな漫画の一つとなるでしょう。デスノートと同じく12巻でコンパクトにまとまっているのも非常に高評価なポイント。
あと、雪山が好きな自分にとっては舞台設定も完璧でした。
誰かにおすすめの漫画を訊かれたら、あと5、6年は『Thisコミュニケーション』と答えることになりそうな、そんな漫画。
ネタバレ厳禁な箇所がいくつもありすぎて逆に、読み始める前だったらネタバレされてもあまり痛くないという珍しい(嬉しい?)ストーリーですが、まっさらな状態で読むのがやはりベストです。
完璧に楽しむためにも気になった方はまず読んでみてください。
概要とあらすじ
彼を助けた少女は、研究所で肉体改造された、イペリットに立ち向かえる能力を持つ「ハントレス」であった。デルウハは毎日3食の食事と引き換えに彼女たちを指揮し、イペリットの襲撃に対抗する。
対イペリットの人造兵器である「ハントレス(女狩人)」は6人。
主人公デルウハはその6人と<コミュニケーション>を取り、人類最後の拠点となる研究所を防衛することになります。
まずおかしいのが、いきなり自殺を図る主人公。ここに合理的思考の極致であるデルウハの行動が分かりやすく現れています。「自分がこれだけ手を尽くしても見つからないのならあとは死ぬしかない、だから自殺しよう」という判断。一般的なサイコパス像とは異なる気がしますが、これがデルウハの強さなのです。
それが合理的、論理的と判断できたのであれば、たとえ自分の命だろうが容赦なく切り捨てる。
理に適い過ぎていて恐怖を感じさせるほど徹底的に合理的。
しかし、こんなデルウハだからこそ、協調性皆無な6人のハントレスを指揮できるコミュニケーションを実現できたと言えます。あくまで、「This」コミュニケーションですけどね。
どこが面白い?
巧みな設定、緻密な時間管理
ハントレスの6人は殺されても復元可能な肉体を持っており実質不死身。しかし、復活には8時間かかり、死亡時直前の1時間分の記憶を失う。
デルウハはこの特性を利用し、うまくハントレスの少女たちをコントロールしていきます。
体は不死身ですが、見た目も心も10代の少女でしかないハントレスたちは、精神が非常に不安定。
それぞれがそれぞれのコンプレックスを抱えており、イペリットと戦うにはあまりにも未熟。
協調性がまったくないため仲間どうしでの喧嘩はいつも絶えません。
ここで、サイコパスを超えたサイコパス・デルウハの能力が遺憾なく発揮されます。
少女間で面倒な諍いが起きようものなら、自分にとって今後不都合なことが起きようものなら、少女たちを容赦なく惨殺。直近1時間分の記憶をリセットして関係の構築をやり直すのです。
ここが本作の最高に巧みで興奮できる設定。1時間という時間の概念が入ることで、必然的に展開が細かくタイムスケジュールで管理されることになります。
それがあることで、納期が迫っていて焦るという経験をしたことがある方は分かると思いますが、あの焦燥感・緊迫感に、脳みそを限界まで駆使している多幸感に近いものを味わえるのです。
本作ではそのタイムスケジュールが緻密に組まれていて、だからこそ、(物語として)当然に起こるイレギュラーや予想外なことが極限の緊張感を生み出し、展開をさらに手に汗握るものにしてくれます。
秒単位で動く計画と、完璧にそれを遂行できる能力。
この2つが合わさり、かつてない感情の高ぶりを喚起します。ここ最近漫画でこの感覚を味わったのは『Thisコミュニケーション』だけ。
デルウハの合理的を極めたが故の狂気
デルウハの合理的を極めた思考は非常に好きです。
なぜなら何と言っても最後の最後までブレませんからね。
(合理的であるのであれば合理的さえ手放す)
必要とあらば、相手が女だろうが子供だろうがぶっ殺す。この姿勢は見習うべきかもしれません。
なにせ、相手に対して空気読んで遠慮していたら、無用な気遣いなんか呑気にやっていたら、人類が絶滅するんですよこの世界。
デルウハ視点であれば納得できる冷徹で残酷な行動も、これが少女視点になると途端にサイコホラーになります。ホラー映画に出てくる殺人鬼そのものと化します。
でもこれが、B級ホラーを楽しんでいる感覚を味わえて非常に面白いんですよね。
それから、少女の殺し方がバリエーション豊富なのも興奮できるお気に入りのポイント。
銃殺、刺殺、圧殺、撲殺、凍死、斬首、脳破壊…etc.
あなたの好きな殺し方はどれですか?
個性の異なる6人のハントレス
6人の少女(ハントレス)はそれぞれ性格が異なります。
似たような姿をしている少女を区別するためでも単純にキャラクターとして個性を出すためでもなく、その違いにより、緊張感・緊迫感を出す仕掛けとして機能させるためです。
要は、デルウハが6人とコミュニケーションをとって絶対的な信頼を勝ち取ればこの話は終わりなのですが、それが上手く行くはずがありません。
思春期&女子&怪力&愛情に飢えているという、何もかもがデルウハにとって不都合な要素が過多に入った人間の集まりですから。
ただでさえ、思春期&女子の部分だけでも面倒くさいのに、そこに肉体的にも精神的にも厄介な部分が含まれています。デルウハはハントレスを殺しまくりますが、普通に戦えば少女たち相手に勝ち目はありません。実際、何度も殺されかけますし。
しかし、相手の未熟な部分を的確についたデルウハの驚異的な殺戮スキルで彼女たちを圧倒します。そこも大きな見どころ(というか、イペリットよりもハントレスたちを殺す回数のほうが多い笑)。
6人が美少女に描かれていないのも良いポイント。
絶対に恋愛要素なんか始まらないことを確信できます。主人公がデルウハである時点であり得ないんですけどね。
かの宮崎駿も言っていました。男はつまらん、女のほうが表情豊かで良い、と。
ジブリ作品のほとんどで女の子が主人公なのはそういう理由なのですが、本作では表情豊かでよく感情を表に出す少女であることが別の意味で活かされています。笑
なぜハントレスは少女しかいないのかって?
反応が良くて殺し甲斐があるからです。
想像を超える展開の連続
『Thisコミュニケーション』はどんでん返し的な展開がいくつかありますが、所々に「こんなの普通思いつかねえよ」という展開が盛り盛りなのが一番優れた点です。
少しネタバレになりますが、序盤のほうでデルウハはギロチンで首を切断されます。
いやいや、嘘でしょ?と思うじゃないですか。主人公が斬首されるなんて、しかも序盤に。
それがなんと紛うごとなく綺麗にすっぱり切り離されるんですよ。
主人公なのに負ける、主人公なのに殺される、これらは散々見てきました。
でもそれらってどうせ主人公補正があって、死んだふりとか別人とか作戦のひとつとかなんでしょ?と予想が容易についてしまいますよね。
しかし、本作は違います。普通に首が切れます。
どうあがいても都合の良い展開にならないことが明白なほどに、ギロチンで切り落とされます。
ここからどうやって話を続けるのかって?
それは読んでのお楽しみです。
すごいのはこれに近しい「嘘だろ?」となるような展開が何度もあること。実にすばらしいです。
終わりを最初から考えて描かれた漫画の価値
本作『Thisコミュニケーション』の面白いところを挙げましたが、個人的に最も評価している部分は、「終わりを決めてから描かれた漫画であること」です。
物語を考えるうえで一番大切なのは、主人公たちをどこに着地させたいかだと思っています。
結末でその物語のほぼすべてが決まるからです。
途中までは良かったけどね…なんて物語が名作と言えますか?私は言えませんし認めません。
最初から最後まできっちりブレることなく過不足なく物語および人間を描いて完結する作品のみが、名作と言えるのです。
だらだらと終わりも決めず長々と続く漫画は好きになれません。
読者の人気に左右されて展開をころころ変える漫画も好きになれません。
物語は常に有終の美が求められるのです。
『Thisコミュニケーション』は物語としてブレることなくきちんと「物語」を全うしている漫画。
売上至上主義が蔓延るこの令和の時代に本作のような作品を生み出したことは、偉業と言っても過言ではありません。
興味を惹かれた方はまず読んでみましょう。おすすめです。
以上、『Thisコミュニケーション』の感想でした。
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