感想『蟲姫』~虫×美少女 相容れぬ要素の掛け算が得も言われぬ魅力を醸し出すホラーサスペンス~

『蟲姫』感想評価レビュー

『蟲姫』(原作:外薗昌也 漫画:里見 有)の感想。タイトル通り、虫がたくさん出てくるホラー漫画です。

虫は嫌悪感をもたらす対象として忌避しているくらいなのですが(特にG)、なぜかこの漫画にはひどく惹かれました。紙の本、Kindle両方買い揃えています(と言っても全3巻)。

漫画では非常に珍しく、2025年には続編(『蟲姫2 蛭子』)が発売されているくらい一部で絶大な人気を誇っているようです。虫が嫌いな人をも引き付けるこの魅力は一体何なのでしょうか。

『蟲姫』の魅力に迫ります。

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『蟲姫』概要・あらすじ

美し過ぎる転校生── 宗方聴久子の発するフェロモンは男も女も、そして虫さえも魅惑する! 兇気に蝕まれ死に呑み込まれていく日常。その先にあるものは…!? ホラー漫画のヒットメーカー外薗昌也と新鋭里見 有のタッグで贈る、戦慄の新世代ホラー!!

引用:1巻紹介文より

恐ろしい黒髪の女の悪夢を連日見るようになった、主人公・高砂 陵一(たかさご りょういち)。ある日、学校にその女によく似た美少女、宗方聴久子(むなかた きくこ)が転校してきたことによって、陵一の日常は大きく変わり始めます。

虫という題材と、少女漫画のような絵柄が絶妙に合わさり、神秘的な雰囲気を醸し出しているのが本作の特徴。嫌悪感や忌避感がまとわりつく虫という対象に、美少女という相反する要素が組み込まれることによって、謎の感情を惹起します。
(何をもって「美少女」とするのかは各人の定義で)

<目を離したいけれど、離せない。見たくないけれど、見てしまう>

見るなと言われたら見たくなる、入るなと言われると入りたくなる「カリギュラ効果」とはまた異なる現象です。

また本作は、環境問題についても触れているので、猛暑が続くこの日本において非常にタイムリーで、改めて地球温暖化や海面上昇について調べたくなりました。大昔から言われていますが、現在はどうなっているのでしょう。

「この地球を支配しているのは人間じゃなくて虫たちなんです」「人間は 今だけちょっと間借りしているの…」と聴久子は言います。もしそうなのだとしたらむしろ喜ばしいことなのかもしれません。

虫嫌いであっても、なぜこの漫画に惹かれてしまうのか、少し考えてみました。

本作が気になった方は私の感想なんか読まずに、本編を読んでみましょう。たった全3巻ですしね。

『蟲姫』の魅力

美少女と虫の組み合わせ

美少女だけでもダメだし、虫だけでも当然ダメです。
この2つが組み合わさることによって、言いようのない魅力(フェロモン)が発生するのは間違いありません。

ホラー作品を好む私として、真っ先に思いついたのが、エロとグロの相性の良さ。
つまり、その組み合わせと等しいということです。もうこれで答えのような気がしますがもう少し踏み込んでみます。

例えば、サイレントヒルに登場するバブルヘッドナース。
あんな看護婦が病院にいたら一目で卒倒するでしょうが、あの世界観の中にいることで異様に魅力的に感じてしまいます。

例えば、呪怨に出てくる伽椰子。
階段から降りてくるシーンに目を離せなくなって、じっと伽椰子と目を合わせ続けてしまったことがあります。

共通点は、どちらも美女であること(容貌、容姿問わず)。そして、そこにそぐわない場所・性質を備えていること。いわゆる美女(美しいもの)と組み合わさることによって、付加価値をもたらすものであることが重要という訳です。

となると、虫は果たしてそれに該当するのでしょうか。
いや、普通に考えればしないでしょう。美少女にそんなもの近づけないでくれます?となる要素でしかありません。

虫をグロ要素と見るのであれば、昔より言われ続けているエロとグロの相性の良さで証明終了となってしまうのですが、安直にそれで確定するのは違う気がします。
なぜなら虫は生き物だからです。美少女に合わせるなら犬や猫でいいはずです。というか、一般的にはそちらが望まれるでしょう。

そもそも、美少女に虫を組み合わせる必然性がないんですよ。よく考えたら。
単純にそういう性癖でしょ、君が気づいていなかっただけ、で流せる問題なのでしょうか?

虫が嫌いなのに惹きつけられるのは?
まずます『蟲姫』に引き付けられる理由が分からなくなってきました。

今世界中で虫が減少している

都市部で生活を営んでいる場合、一番身近な虫はなんでしょうか?
台所に湧く小蠅?ちょっと歩けば刺してくる蚊?街灯に集る虫?部屋に住み着くG?それとも夏に鳴く蝉くらい?

部屋をキレイにしていれば小蠅やGには遭遇しませんし、窓を閉め切っていれば蚊も滅多に入ってきません。
蝉の鳴き声は近くの公園から聞こえますが、そういえば、街灯に無数に集る虫ってあまり見なくなった気がします。

ということで調べてみたところ、解剖学者の養老孟司氏によると、
この30年で昆虫そのものが全世界で8~9割も減少しているようです。

都市部に引っ越したからというのもあるでしょうけど、絶対数が子供の時に比べてそんなに減っていれば、当然普段関わりがなくなった訳です。なるほど、顔にぶち当たる虫が減ったのはそのおかげか。笑

今年の異常な猛暑続きも影響して、今後さらに減っていきそうですね。
虫嫌いからすれば嬉しいことのように感じますが、その思考はあまりにも人間本位。

虫が減ればそれを食べている鳥や魚も減ります。鳥や魚が減ればそれを食べている上位捕食動物が困ります。そうして、街に熊や猪が下りてくるのです。

この世の出来事は全部つながっていると改めて気づかされます。
食物連鎖から爪弾きにされている人間には無関係なようで、決してそんなことはないのです。

熊は人を襲って食べる恐ろしい生き物なんだ!だから、殺して当然!
それを繰り返して来た結果が現状なんですよね。これからさらにそれを続けるならもっとひどいことになるのは火を見るより明らか。

人間は加害者であっても絶対に被害者ではないのです。襲われた事実だけをピンポイントで見て論じるのは愚か。

もういい加減、根本的な対策を全世界で協力してやらないといけない段階なんですよ。
この地球上で人類は「どこ」に立つのか。これから「どう」生きていくのか。

人間は今後もずっと地球環境を破壊し続け、最後には自らを滅ぼして終わるのでしょうか。このままでは間違いなくそうなります。そんなの文明や科学、知能を備えた生き物のやることでしょうか。

今や「未だに科学を発展させるのに必死になってるのマジでダサいよ」という時代が到来しているのです。

ということで、『蟲姫』の話に戻ります。

儚い×儚い

虫は見た目が気持ち悪かったり刺されたり毒があったりというイメージから忌避感情が湧くのでしょう。しかし、単体で人間と戦った時にはあっさり潰されるのがオチです。自分よりはるかに大きな生き物には基本敵いません。人間の多くが嫌っていても、虫からすれば人間のほうがはるかに恐ろしい生き物です。

寿命が短く、体も小さい、群れないと生き残れない。数が大幅に減少していることも加え、虫とは言わば「儚い」存在。でも、地球にとっては絶対に必要な生き物です。食物連鎖には欠かせない要素です。…人間とは違って。

これらから考えるに、虫とは地球にとっての美少女なのではないでしょうか。

だから、『蟲姫』において、儚い存在同士である美少女と虫が組み合わさることによって、得も言われぬ魅力を醸し出しているのかもしれません。
ましてや、宗方聴久子は、切れ長の目、クールな性格、長い黒髪という典型的な日本の美少女像をしています。老若男女関係なくそこに拒絶反応を示すような人間はこの世に存在しないでしょう。作中でもそうであるように。

今、日本人女性の半数強が50歳以上です。さらに、全人口の3割が65歳以上…。これはとてつもない状態。
となると、10代女性の希少価値が上がっているのは、確定的事実です。

30年で、8~9割減少した虫。
今後増えようのない10代女性(かつ美少女)。

美少女と虫の共通点が見つかりました。…意外にも一切が相反する要素ではなかったようです。

『蟲姫』は、人間への虫の逆襲の話。
本作は、人類への警鐘なのかもしれません。
そう遠くない未来に起こり得るのだと。お前たちの支配はもうすぐ終わるのだと。

2025年になってそれはより現実味を帯びてきています。

まとめ:単なるホラー漫画ではない

ベッドで眠る陵一を聴久子が愛おしそうに眺めるシーンがあります。触手愛撫つき。
この見開きは初めて見た時から10年経ちますが、未だに脳にこびりついて離れません。
それくらい衝撃的で『蟲姫』の魅力を象徴する絵です。

そのシーンを見るだけでも本作を読む価値は十分にあります。

虫が嫌いな方もぜひ読んで見ましょう。
もしかしたら、虫が好きになるかもしれませんよ。

ちなみに、大幅に加筆された<完全版>もあります。驚きの追加数でした。こちらもぜひ。


以上、『蟲姫』の感想でした。

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