突如配信されたサイレントヒル新作『SILENT HILL:The Short Message(サイレントヒル:ショートメッセージ)』の感想と評価です。
久しぶりにサイレントヒルの新作がプレイできるというだけで気分が高まりました。
が、テーマが『GYLT』に続き、「いじめ」だったおかげでテンションはだだ下がり…。
(いじめがテーマだと面白くないんだよ…)
とはいえ、長年ご無沙汰していたサイレントヒルをPS5のグラフィックで、しかも無料でプレイできて満足です。
『P.T.』のようにいつ配信されなくなるか分からないので、興味が少しでもある方は早めにDLしておいたほうがよいかもしれません。
プレイ時間:2時間ほど
ゲーム内容紹介
なぜマヤに会えないのか、なぜ怪物が襲い掛かってくるのか。アニータはどうにか廃墟を脱出しようと試みますが…。
「いじめ」がテーマのストーリーです。
アニータは、学校でいじめられ孤立しているうえに、家庭の経済面のこともあり、精神状態は良くありません。
単なる被害者であればそれで済んでいたかもしれませんが、何かに対する罪悪感も抱いている状態。
サイレントヒルに呼びこまれる条件がまさに揃っています。
アニータが罪悪感を抱えているという時点でサイレントヒルファンの多くは、その原因に気づくかもしれません。
個人的に、いじめをホラーゲームのテーマにするのは悪手だと思っています。
この前にプレイしていた『GYLT』もいじめがテーマだったから辟易しているのではなく、たいていの場合学生の話なので、精神的深堀りがなされず哲学的にも浅慮で、全体的に暗いだけの軽いゲームになってしまうからです。
まあ、今回は短編の無料ゲームなのでむしろ良しとしましょう。
フルプライスのゲーム本編で、いじめをテーマにされたらたまったものではないですからね。
舞台設定は良いが恐怖感に欠ける
本作はなぜか全くもって恐怖感がありません。
安価なインディーホラーゲームにも感じられる恐怖感が皆無なのです。
ほぼ実写と見紛うばかりのグラフィックで、不気味な廃墟が舞台なのになぜでしょうか。
考えられる原因は以下。
- いじめがテーマ
- 主人公に生きる気力がない
- はじめから妄想だと分かる
いじめをテーマにすると冷める
いじめをテーマにしているために内容があまりにも卑近で恐怖心を阻害している可能性が1つ目。
上述した通り、いじめというそれそのものが未熟さ愚かさ浅はかさの象徴ですから、大人(大人の定義はお任せします)からすると「正直、どうでもいい」物体なんですよね。
今後のサイレントヒルの展開を期待させる意味を持たせるためのプロモーションゲームであるならば、なおさらいじめなんかをテーマにすべきではなかったと思います。
もちろん、「いじめっこは全員ぶち殺す」みたいな展開になれば面白かったでしょう。綿密に計画を立て一人ずつ「処理」していくのです。おまけに怪物に殺されて計画が頓挫する危険性もあれば、確実にスリルは生まれます。(かと言って「復讐」をテーマにするとそれもまた微妙なんですけどね)
しかし本作のように内にこもったままの物語だと観念的な話に終始してしまうので、少なくとも大人のプレイヤーからは冷めた目で見られるのがオチです。主人公と同世代の学生なら多少共感は発生するかもしれませんが。
とにかくホラーゲームといじめはミスマッチ。
生と死 その相反が恐怖心を生む
2つ目は、主人公に生きる気力が無いこと。
自殺を望むような精神状態の人間に生への渇望があるはずもなく、死への忌避感情がないために恐怖心も湧かないのです。
「こんなところで死んでたまるか」「ここで死んだらあの人に会えない」など、
生きるエネルギーや目的がある人間でないと、不気味な訳の分からない怪物に襲われても焦燥感すら発生しません。
主人公に生き残らねばならない理由がないのは致命的。自ら屋上から飛び降りれる人間にホラーは必要ないのです。
それどころか、主人公はこの歪な汚れた廃墟にすでに同化してしまっていますからね。
得体のしれない場所ではなく、もはや「ホーム」になっていては、その舞台から恐怖心が喚起される訳がありません。
通いなれたところが大きく変化していれば妄想だと気づく
初めて訪れた場所がこの廃墟と化したマンションであれば間違いなく恐怖感はあったでしょう。
しかし、主人公がおそらく放課後に何度も通っていただろう場所です。
そこがいつもと違う状態になっていることが分かれば、プレイヤーは主人公の妄想が生んだ世界だと分かってしまいます。3つ目の理由がこれ。
さらに、無限ループに取り込まれていることが分かると、もう死はゲームのシステム上の出来事でしかありません。回数制限があるタイプのループであれば、また別の恐怖感は生まれたでしょうけども、本作はむしろループを強制されているパターンですからね。
あと影響しているのが、合間に挟まってくる実写ムービー。この時代に実写を安易に使うのは得策とは思えません。昔ならグラフィックの粗さを補う手法として、また、リアリティを確保する手段として有意義でした。
が、そもそもグラフィックがほぼ実写に近いレベルになった今、実写の恩恵は少ないです。むしろ邪魔なくらい。実写は冷めるんですよ。萎えると言ったほうが正しいかな。
以上が本作に恐怖感がない要因だと推察します。
まあ、ラストステージだけはホラー的な恐怖とは別の恐怖感がありましたけどね。
ゲーム性について
基本は、「廃墟の探索」と「追いかけっこ」だけです。
不気味な廃墟を探索しながら(マヤを探しながら)、合間に桜の花をまとった長身美少女との追いかけっこを楽しめます。
後ろを見る機能があるので、怪物との距離を保ちながら逃走しましょう。
主人公はフクロウ並みに首が回るらしく、瞬時に間断なく後ろを振り返れます。あまりにも速すぎて、「俺でなきゃ見逃しちゃうね」状態が発生するので要注意です。
それ以外にゲーム性はほとんどありません。
死ぬたびに主人公が違うセリフを言うのは良いポイントだと思いました。
セーブポイントからやり直しなのではなく、目的達成するまで逃がさないというループするストーリーと噛み合っています。
本作は恐怖感はなかったですが、死んだらやり直しのスリルはありました。
ラストの追いかけっこは、アイテムを集めながらの逃走なので死んだらまた一から集め直しです。
追いかけっこ自体に飽きているところに、アイテム集めを強制するのはギリギリアウト。
曲がり角が多く似たような見分けづらい部屋ばかりなうえに、逃げている方向に怪物がワープしてきて邪魔します。
こういうのはリトライは3回が限度かな。それ以上は積みゲー行き確定でした。3回目で集め終えられて良かったです。でもまあそこそこスリル(やり直しへの恐怖だけど)があって楽しめました。
演出・ストーリーについて
やはり裏世界に変わるシーンは気分が高揚しますね。
今回は壁や天井が剥がれていくあの描写に加え、スマホ画面にノイズが走るという今風の表現もあります。
それから、ラストの演出は非常に良かったです。
罵詈雑言が書かれた紙が吹き飛ばされ、廃墟を覆っていた霧が晴れて、夕焼けが見えるシーン。
あの美しさは心を動かされるものがありました。
あのシーンを見るためだけにこのゲームをやる価値はあるでしょう。
ストーリーについては、いじめがテーマなので触れません。
SNSが日常の一部と化した現代への警鐘も含まれているのでしょう。そこは別に問題提起としてありなんですけど、いじめは単純に面白くないですからね。何度も言っているように、ホラーゲームには不向き。
それと、せっかく3人も実際の人間を起用して実写を挟むのなら、もっと大規模な話にしてほしかったです。
ゲームよりあの3人の演技をもっと見たかった。ほとんどマヤ役の人の独り語りだけでしたし。
一言だけいじめについて語るならば、
世の中の教師や保護者が「なぜ学校からいじめがなくならないのか」と真剣に議論しているのを見ると笑えてくるんですよ、とだけ。
この社会から犯罪や戦争がなくならない理由と一緒だよ。そんなことも分からないのか?
新作への期待が高まる一作
『SILENT HILL:The Short Message(サイレントヒル:ショートメッセージ)』から分かるのは、やはりグラフィックの良さとホラーゲームの恐怖度は結び付かないこと。
それでもハイグラフィックなホラーゲームをしていると、それだけで気分が上がってくるのは間違いありません。
インディーホラーゲームは溢れていても、あれらのほとんどが悲しいかな、ゲーム配信者たちに「消費される」運命ですからね。(ゲーム配信者・実況者にプレイされること前提のホラーゲームほどつまらないものはない)
そろそろ、サイレントヒル2リメイクはもちろん、サイレントヒル新作などで、確かな塊としてのホラーゲーム、確固たる魂を感じられるホラーゲームをプレイしたいものです。
それにしても、このクオリティのゲームを無料配信なんて粋なことをしますよね。
いじめがテーマなのはともかく、本作のおかげで今後のサイレントヒルへの期待感が高まりました。
サイレントヒル2のリメイクは、そのためにPS5を買うことに決めたくらいに期待値は高いので、ぜひとも往年のファンが賞賛するくらいのクオリティに仕上げてほしいですね。
以上、『SILENT HILL: The Short Message』のレビューでした。
コメント
ひらすら迷路空間で「鬼ごっこ」したいわけじゃないんだよね……。
イベントの一つとして、そういうのがあるのは良いけど、
延々とそればっかりだと、意味不明なゲームになってしまう。