ドラマ『スニーキー・ピート』は好きなドラマTOP5に入るほどお気に入りの作品です。
家族の一人になりすます詐欺師の話で、巧みな話術・鋭敏な頭脳・器用な手先を駆使した、知的でスリリングな展開は非常に見ごたえがあります。本来騙される側のはずの家族が曲者揃いなのが面白さ(スリル)に拍車をかけていくのも特徴です。犯罪ドラマとヒューマンドラマ両方の側面を持つ傑作。
シーズン3で打ち切りとなった本作ですが、私はもう5~6周は観返しています。それほど大好きなドラマ。打ち切りと言ってもキレイな終わりをしているので唐突な感じはありません。たぶん半年後くらいにまた観たくなってると思われます。
Amazonオリジナル作品なので、プライムビデオで視聴可能です。
知的でスリリングな犯罪ドラマはもちろん、曲者キャラが好きな方にもおすすめ。
概要・あらすじ
自らの詐欺師としての問題に加え、ピート家族の問題も抱えることになり、同時並行して様々な危機に巻き込まれる。その傍ら、マリウスは今まで経験したことのない家族の愛情に触れ、愛着を持ち始める。
基本的には詐欺師としての騙し騙されの部分が根幹となりますが、それだけではよくある詐欺師もの犯罪ドラマ。
本作が一癖も二癖もある特徴的なドラマとなっているのは、本来騙される側でしかなかったはずの家族が、熟練の詐欺師であるマリウスもびっくりな曲者揃いだったのです。
誰一人として普通ではなく予想できない行動をするので、マリウスはふりまわされがち。しかし、このドラマの良い所は、そんな家族の愛情を感じられるヒューマンドラマにもなっていること。
マリウスの仕掛ける爽快で痛快な詐欺と、トラブルを引き起こしながらも愛情あふれる家族の絆、その相反するかのような2つの要素が巧みにない交ぜになりながら、飽きの来ない素晴らしい展開を見せてくれます。
話を追うごとのマリウスの心境の変化も見どころです。
お気に入りポイント
主人公マリウス役のジョヴァンニ・リビシ
よくある詐欺師ものだと、主人公はスマートでハンサムな背の高いイケメン設定であることが多いです。実際の詐欺師もルックスが何より重要だと言います。
ところが、本作の詐欺師(マリウス)役、ジョヴァンニ・リビシはどの詐欺師のイメージにも該当しません。アメリカ人男性としては小柄ですし、筋肉も少なく細身。お世辞にもハンサムだとは言い難いルックスです。
実際作中でも、胡散臭い雰囲気を持つひょうきんなキャラとして描かれています。
しかしこれが、意外にもどんどんカッコよく見えてくるのです。
話が進むにつれて、マリウスだからこそできる詐欺、マリウスだからこそ勝ち取れる信頼のようなものがあると判明してきます。
それは長身イケメン詐欺師には決して真似できないマリウスならではのやり方に基づいたおかげ。
弟のエディーから絶対的な信頼が置かれていること、詐欺師仲間がたくさんいて人脈豊富なこと、そして他人の家族に馴染めてしまうことから分かるように、マリウスは「人たらしの天才」なのです。
でもそれは、完全に詐欺のための仮面(嘘)ではありません。そこが何よりも魅力なのです。
マリウスのキャラクター性は本当に好き。
個性際立つピート家族
曲者揃いであるピート一家。彼らもマリウスに負けず劣らずの個性を持っています。曲者であっても、みんな良い人です。マリウスにとってピートに成りすましたのは、明らかに不運と言えるのですが…。
まず、ピートの祖母のオードリー。家業の保釈金立替会社を経営する切れ者です。年の功を積み上げ磨いた人そのもの。誰よりも早くマリウスの正体に疑問を抱き始めます。長年の経験に裏打ちされた豪胆さは本物で、真実を吐かせるために相手の指を平然とへし折るシーンも。マリウスにとって最初の壁となる人物。こんな人がおばあちゃんだったら心強いですけどね…。
ピートの従姉であるジュリアもなかなかの賢い曲者。祖母の経営する保釈金立替会社で働くシングルマザー。意志の強さ(確実に祖母から遺伝してる)と女性ならではの感情の揺れ動きがマリウスを度々困らせます。物語にもマリウスにとっても重要な人物。個人的には第2の主人公だと思っています。
他にも、従兄で警察官のテイラーや従妹のカーリー、祖父であるオットーがピート家族として登場します。
久しぶりに家族が戻ってきたなら当然昔話に花を咲かせることになるのですが、そこでの切り抜け方がスリリングで面白いんですよね。嘘をついたことにより、辻褄を合わせるためにさらに嘘を重ねないといけなくなったあの焦燥感、胃が締まるような感覚。あれを体感できます。ましてや目の前に、異様に鋭い祖母や警察官になった従兄がいますからね。
マリウスの生き方を見ていると、日常でもあえて嘘をついて逃げ場を無くしてスリリングにしてみるのも一興なんじゃないか?と思えてきました。平和ボケした脳みそを呼び起こすのに、嘘をつくのは案外効果的かもしれません。嘘はある程度頭が良くないとできない芸当らしいですからね。「確かに騙すほうが悪いかもしれない。しかし、騙されるほうは頭が悪い。だからどっちもどっち」なんて詐欺師は考えているでしょうね。
ともかく、この家族に潜入したことによって、とてつもないスリルを生むことになっています。みんな個性的で生き生きしていてちゃんと「人間」をしているのが何より最高なのです。
個性光る名脇役ばかり
個性的なのはピート家族だけではありません。マリウスの詐欺師仲間や敵となるギャングも個性豊かな人物が揃っています。
本作はマリウスの詐欺師としてのカリスマ性をメインとするドラマではありません。
マリウスが何もかも一人でやってのけるなんて場面はほぼありません。
マリウスは詐欺師としては非常に有能ですが、それでもミスはするし計画は崩れるし、思い通りにいかないことのほうが多いです。
そこで助けとなるのが、ピート家族や詐欺師仲間。多くの人の助けがあって、マリウスは詐欺を成功させます。
個性光る名脇役たちによって、本作は群像劇的な面白さも堪能できるのです。
どんでん返し
詐欺師ものの犯罪ドラマなら絶対に必要な要素「どんでん返し」。
なぜフィクションにおいて詐欺は許されるのか。好まれるのか。
それは、どんでん返しがあるからなんですよね。
本作『スニーキー・ピート』も、期待通りに、いや、期待以上のどんでん返しを楽しませてくれます。
これがあるのとないのとでは、ドラマとして天と地ほどの差が出ますからね。
特にシーズン1のラストは、「うっひょー!」と叫びたくなるような驚きと興奮を味わえるほど、超巧みで爽快。
これにハマらない訳がありません。
まとめ『スニーキー・ピート』
ミステリー、サスペンス、ホラーを好み、それらジャンルには媒体関わらずよく触れます。
理由としては、驚きと意外性を味わえ、刺激的な体験ができるからというのが大きいでしょう。
しかし、私はなにより「人間」を視ることのできるフィクション作品が好きです。
この世の物語はすべて「人間」が主役だからです。
人間が主役でない物語は存在しません。なぜなら物語は人間が作るからです。
ドラマであれ映画であれゲームであれ小説であれ、人間を蔑ろにした作品は例外なく駄作です。
逆に言えば、「人間」を魅せることができれば、その物語は名作になり得ます。
『スニーキー・ピート』は「人間」を視ることができるドラマです。
それは安直な感動や激しい言葉によって、無理に特徴づけた人間ではありません。
人を熟知していないとできない詐欺と、人を魅せるヒューマンドラマは、本当はこんなにも相性が良かったんですね。
以上、『スニーキー・ピート』の感想でした。
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