隠れた名作『MULAKA(ムラカ)』(PS4)をレビューします。
MULAKA(ムラカ)は、メキシコの“走る民族”「タラフマラ族」が主人公のアクションアドベンチャー。
タラフマラ族の神話を基にしたエスニックな世界観と、シンプルでありながら痒い所に手が届く爽快なアクションがうまく融合し、非常に完成度の高いゲームとなっています。
お気に入りのゲームの一つになりました。
プレイ時間:20時間(プラチナトロフィー取得まで)
こんなゲームがあったのか!
ところで、「タラウマラ族」(ゲーム内ではタラフマラ族)をご存知でしょうか。
北メキシコの山奥に実在し、走る能力にとてつもなく秀でている民族です。
私が知ったのは、今や愛読書の一冊となった『BORN TO RUN 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”』という本の中。
作中では、<世界でもっとも偉大な長距離ランナー>とも言われています。
学生時代に長距離走をやっていて、今も趣味でジョギングしている私ですが、この本を読んで「走る」ということに対する認識が大きく大きく変わりました。
それほどに、目から鱗な興味深い事実が満載で、これまでの常識が覆るくらい衝撃を受けた作品です。
最近は、大迫傑選手のマラソン日本記録更新(そして、賞金1億円)や東京オリンピック選考レースで盛り上がりを見せ、「フォアフット走法」「厚底シューズ」など、“走ること”についてテレビやネットでも頻繁に取り上げられるようになりましたよね。
でも実は、走ることはランナーだけのものではなく、すべての人類に密接に関わりのある重要なファクターである。
ということが、「タラウマラ族」を通して、『BORN TO RUN 走るために生まれた』では紐解かれていきます。
走ることに興味がある人もない人も一読の価値ありです。おすすめ。
さて、『MULAKA(ムラカ)』は、そんなタラフマラ族の文化を基に作られたゲーム。
PS Storeでたまたま見かけたときには「こんなゲームがあったのか!」とビックリしましたね。
あのタラウマラ族を主人公にするとかセンスありすぎだろ、気になる!
と迷うことなくすぐさま購入。
直感で面白そうと思ったけれど、見事正解。
ダウンロード版のみのインディーゲームなので、知名度は低いですが、間違いなく名作だと言える出来でした。
それでは、MULAKA(ムラカ)の評価・感想を書いてきます。
タラフマラ族の文化とカラフルな世界
タラフマラ族の伝統や文化をそのままゲームに落とし込んで作られてある完全オリジナルのビジュアル。
地形や人物、敵キャラもすべてペーパークラフトで再現しているかのような、色彩豊かな世界になっています。
他に似たゲームのない特徴的なデザインですよね。
ゲーム内のすべてが、タラフマラ族の神話と伝説からインスピレーションを受けたものなので、私たち日本人には全く馴染みない言葉ばかり。
でありながら、コンセプトが常に一貫しているので、プレイしていくうちに自然と世界に入り込めます。
このゲームの目的は、世界を救うこと。実に王道ですね。
“星の子”と呼ばれる主人公ムラカは、世界を堕とそうとする邪悪な神に立ち向かうため、半神たちの協力を得ながら各地を巡礼します。
シンプルで爽快なアクション
ムラカは、タラフマラ族のシャーマン・スクルアメ。
タラフマラ族の身体能力とスクルアメだけが持つ特殊能力を活かしたアクションを行います。
弱攻撃と強攻撃によるコンボ、必殺技、槍を投げる、ステップ回避、ジャンプ、アイテムでの攻撃・強化。
それから、<スクルアメの目>で、見えない敵や相手の体力を見ることも可能。
アクションゲームに必要な要素を過不足なく満たしてますね。
また、“走る民族”だけあって、スタミナ制限が一切ありません。
無限に走り続けられます。
特に面白いのが、ボス戦。
大型なので、モンハンのようなバトルを繰り広げることができます。
各ステージの最後にボスが現れますが、それぞれ工夫されていて本当に楽しいです。
飽きさせないアイデアが盛りだくさんで、感動さえしました。
動物に変身できる
各地にいる半神たちは動物の姿をしています。
彼らから認められることで、ムラカは半神の力を使えるように。
鳥になって空を飛んだり、熊になって大岩を壊したりなど、動物の特性を活かしたアクションが可能です。
(他にも数種類います)
これはとても好きなシステム。
動物の力を借りるのは、大自然との一体感を味わえますし、「人類のためだけに戦っている訳ではない」という壮大な意志を感じることができますからね。
これぞヒーローって感じがします。
タラフマラ族の音楽がすばらしい
MULAKA(ムラカ)は、世界観に適したすばらしいBGMと効果音が多いのも特徴です。
メインテーマ曲はもちろん、ムービーシーンやボス戦で流れるBGMも非常に印象的。
また、ナレーションが現地の言葉らしく、神秘的な世界観を構成するのにひと役買っています。
音楽もこのゲームを語るうえで欠かせない魅力的なポイント。
ひとつひとつの音がリアルで、強いこだわりを感じられます。
世界観もアクションも音楽も、とにかく完成度が高いです。
シナリオが良い意味で強烈
このMULAKA(ムラカ)、
予想に反して強烈なメッセージ性を持つゲームだということが、エンディングで判明します。
それまでの道のりは、各エリアのボスを攻略し、半神を仲間にして、ラスボスを倒しにいく。
という実に単純明快な話で、ヒロイックアクションの王道とも言えるシナリオです。
が、ラストにプレイヤーを良い意味で裏切ってきます。
正直、「インディーゲームだし、これだけアクションが楽しめれば十分でしょ」「この価格でここまでプレイできるなら満足満足」くらい思っていたんですよね。
いやいや、甘く見すぎていました。
エンディングを見て、<紛うごとなき名作>であることを確信したほどです。
ネタバレになるので内容には触れられませんが、もしかしたら、世界各地でいろんな人がこんなふうに「限界」を感じているのかなあ、と思いました。
メキシコは実際かなり物騒な地域ですし、そういう思想に至ってもおかしくないのかもしれません。
日本の多くの人にとっても、身につまされることになるエンディングなのではないでしょうか。
インディーゲームだからこその情熱
インディーゲームに抱いていた偏見を、見事打ち砕いてくれたMULAKA(ムラカ)。
まさか、心を軽く抉ってくるような内容になっているとは思わなかったです。ほんとに。
(これまでは低予算の暇つぶしゲームとしか思ってませんでした。反省)
インディーゲームは少人数(MULAKAはなんと8人!)で作られているからか、スタッフの思考や思想がダイレクトに伝わって来るメッセージ性の強い作品が多い気がします。
対して、グラフィックに気合の入った昨今の“大作”ゲームだと、何百人ものスタッフが関わっていることも珍しくありません。そのせいで、ガラパゴス的に肥大化した、メッセージ性の少ない大衆に迎合した“商品”しか作れなくなってしまうのでしょう。
それに、今は次から次へと大作が発売されていますし、一つ一つのゲームに思いを馳せることも少なくなりがちです。(まあ、ゲーマーでもなければ積みゲーはほとんどないでしょうけど…うーん、もっと時間が欲しいなあ…)
プレイヤーにとっても、ゲーム製作者にとっても、現状は「限界」に近いのかもしれません。
(大人の事情が多く含まれたせいで、がっかりすることになった作品は数知れず。何ヶ月も延期した挙句にバグまみれで課金要素満載だったりとかね…)
その点、MULAKAをプレイしていると、ストレスをなるべく抱かせない親切な作りになっていることがわかりますし、何より、情熱を感じられます。
クリア後は、壮大な映画を見終えたかのような気分になりました。
タラフマラ族を知らなければ、おそらくプレイすることはなかったでしょうし、インディーゲームの良さに気づくこともなかったでしょう。
ありがとう、タラフマラ族。
これを機にもっとインディーゲームを遊んでみようかと思います。
シンプルなアクションゲームをやりたい方、タラフマラ族の幻想的な世界観に浸りたい方、“大作”ゲームに疲れた方におすすめです。
ムラカと共にエキゾチックな世界を駆け抜けよう。
以上、『MULAKA(ムラカ)』のレビューでした。
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