PS vitaで発売されたダンジョン探索型ホラーアドベンチャーゲーム『死印』。
DRPG(ダンジョンロールプレイングゲーム)で有名なEXPERIENCE(エクスペリエンス)制作の、廃墟や森を探索しながら怪異と戦うシステムのホラーゲームとなっています。
新しいスタイルだけれど、懐かしのジャパニーズホラーを感じさせてくれる近年では珍しい作品です。
プレイ時間:15時間(プラチナトロフィー取得+追加DLC含む)
根幹となるCGイラストが美しい
おそらくこの『死印』というゲーム。
8割以上イベントCGイラストで出来ています。
(京都で言うところの「八つ橋」のようなもの)
「友野るい」氏の描いた美麗なアートワークにピンときたなら、プレイする価値アリと言えますね。
ゲーム内に(なぜか)アートギャラリーがないので、スクリーンショットで全部保存しました。(ネタバレになるので重要なイラストは載せないようにします)
ホラーに必要な(と勝手に思っている)「グロテスクだけど、どこか美しい」、それが見事に表現されています。
言葉もなく恐怖を感じさせる臨場感あふれるイラストは、本当に惹かれるものがあります。
非常に好きです。
ゲームとしての評価・感想
完全新作なので、手探り感は否めません。
キャラクターのセリフがフルボイスだったら、また違った評価になりそうです。
一部や冒頭部分しか喋らないから、懐かしさを感じることができるのかもしれませんが。
システムに少し戸惑う
ダンジョンを十字キーで前後左右に移動して探索。
懐中電灯で照らし、アイテムを収集。
基本はずっとこれ。
あとは、各シナリオの最後に怪異との戦闘があります。
じっくり探索すれば詰まるようなことはありません。
ただ、アイテムやオブジェクトを調べるときに、「見る」「探る」にコマンドが分かれているのですが、これが問題。
その一方でしか手に入らないアイテムがあるため、探っていても見てなければ、アイテムが見つからないことがあるのです。
これになかなか気づかず森を延々とさまようことになりました。
(苦労して見つけた時には、こんなの気づかねーよ!とツッコミをいれてしまいましたね…)
とまあ、少々操作にまごつく仕様ではありますが別に難しくはありません。
毎回きちんと探索していれば問題ないでしょう。
テキストはクセがなく読みやすい
アドベンチャーゲームは、文章も重要となります。
特にホラーの場合、文章がつまらないと恐怖も薄れて残念なことに。
その点『死印』は、目の前の光景や出来事を淡々と描写するクセのないテキストで非常に読みやすかったですね。
(声に出して読んでもつまることがない文章、と言えばわかりやすいでしょうか)
ほど良く恐怖を煽らせ感じさせてくれました。
キャラクターについて
ストーリーが短いため、キャラクターの掘り下げが浅いです。
ここは非常に残念。
進め方次第では、突然死んでしまうこともしばしば。
しかも、あっさり死ぬ割には、無残な姿となることがほとんど。
ただ、登場人物の一人、アイドルの「柏木愛」はとても気に入りました。
まったくアイドルに興味のない私ですが、もしこんなアイドルがいたら、
「ライブに行くほど応援して」「CDやグッズを買いまくるだろう」
とまで思いましたね。
ここまで人格者で、アイドル オブ アイドルを名乗るにふさわしいアイドルは現実にはいないでしょう。
「全アイドルがお手本とすべきキャラ」と言ってもいいほどです。
その点作中に出てくる登場人物の一人、ヲタクの「栄太」は見る目がありますね。
彼もまたヲタク オブ ヲタクなのかもしれません。
ストーリーは予想外に楽しめた
このまま淡々と探索して怪異と戦うだけなら少し退屈かなと思っていたところ、良い意味で驚かされることに。
あまり起伏のない物語だからこそ、それが映えたのかもしれません。
最後の最後で評価は一転しました。
最近の派手なグラフィックのホラーゲームと比べると見劣りするかもしれませんが、
寝る前に横になってプレイする、というちょっとした1日の楽しみとなるゲームと言えます。
(ホラーゲームですけどね)
それゆえに、キャラの掘り下げやシナリオの短さが惜しい作品です。
ここは次回作に期待するとしましょう。
『死印』から見るホラーの在り方
最近は良質なジャパニーズホラーが減ってきましたよね。
世間一般では、ホラーは、一時的に話題になる“キワモノ”という扱い。
変態だけが好むジャンル、みたいな風潮さえあります。
だから、需要が減り新たな作品が生まれなくなる、という負のスパイラルに陥っているんですね。
しかし、ホラーファンは少なからず絶対にいます。
そのすべてが血や暴力を好むような変態なのでしょうか。
そんなはずはありません。
ホラーに嫌悪感情を示す人の大きな勘違いと考えの足りなさが、ホラーへの偏見や衰退を生む要因となっているのです。
別にホラーものを好きになれと言っているわけではありません。
もっと世間に受け入れられ人気になるべきと思っているわけでもありません。
確かに、残酷なシーンだけを好んで見る人は変人と言えますし、世間からは奇異の目で見られるのは仕方のないことでしょう。
ですが、痛々しい描写やグロテスクな表現だけがホラーではないのです。
「ホラーの本質」はそこではありません。
(残念ながら、作り手側がこれを理解していないことも大いにあります)
私が思うに、幽霊や怪異の存在は、物語を盛り上げるためだけのアイテムではなく、「死人に口なし」の無慈悲なこの現実世界に何かしらの光明を与えてくれる重要な要素なのです。
だから風化させてはいけない、忘れられてはいけない、と強く思うのです。
この社会を生きる人々の多くが、
少しでも他人を思いやれるような、身近な他人を気遣えるような、
それこそ、「死んだ人の怒りや虚しさなどの想い」を汲み取れるような、
人間であれば世界は今のようにはなっていないはず。
そこに気づくきっかけとして、私はホラーおよび幽霊という存在がこの世に生まれたのだと思っています。
死者に対する恐怖は、「畏怖」です。
怖いからこそ意味があるのです。
死と向き合い畏れるからこそ、生をより実感できるのです。
人を大切にできるのです。
ただ怖がらせたり不快な目に合わせたり残酷なシーンばかり見せたりするのがメインではダメ。それはホラー失格です。
だからこそジャパニーズホラーが必要なのです。
悪魔や怪物ではダメな理由がそこなのです。
あくまで、不条理や理不尽の象徴としての幽霊や怪異でなくてはなりません。
私はそう思います。
『死印』が上記のようなこと考えて作られたかどうかは分かりません。
でも、需要の少ない現在に敢えてホラー新作を発売するという気概には、ホラーファンの一人としてどうしても応援したくなってしまいます。
気になる点が多く粗削りではありますが、それらを見事改善できれば、新しいホラーのスタイルを確立できるほどの作品になるのではないでしょうか。
次回作『NG』が楽しみです。
以上、『死印』のレビューでした。
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