『トビラ 魔の入り口』(原題:Door in the Woods)の感想(評価とレビュー)です。
B級ホラー映画であることは間違いありませんが、随所に光るところや、本作でしか見たことのない描写、展開があります。
途中何度かもう観るのやめようかなと思いつつも、結局最後まで観てしまいました。
そしてやっぱり観て良かったと思えた映画です。
常時(不思議なほど!)仲が良い夫婦と、耳の聞こえない黒人エクソシスト
というユニークな登場人物たちでありながら、基本的に平坦に物語は進んでいきます。
ホラーとしては恐怖に欠けるし、グロテスクなシーンも、ビックリさせる演出もほぼないです。
怖さを求めてホラーを観る人にとっては退屈に思えるでしょう。
が、このオチは予想できません。
「そうくるか!」と声に出してしまうほど意外性がありました。
相変わらず日本語タイトルと日本語惹句はダサい(センスがない)ですが、B級ホラーファンは観るべき作品の一つです。
Amazonプライムビデオにありますので、興味が湧いた方はぜひ。
あらすじと概要
田舎町へ越してきたイーデン一家。ある日、一人息子ケインが学校でケンカをして停学処分になってしまう。
落ちこむケインを元気づけようと、森にハイキングに出かけた親子3人。
そこで見つけたアンティークの扉を持ち帰ったことで、一家に不可解な現象が降りかかる!
戦慄のホラー・サスペンス!
主人公は息子ケインではなく、イーデン夫妻(夫レッド・妻エヴェリン)。
この二人、ホラーにありがちな軋轢のある夫婦ではなく、ずっと仲が良いです。
息子が停学になった時も、すぐさま2人で話し合って解決を探り実行します。
あまりにも仲が良いので、何か裏がありそうだと訝しんだ自分の疑り深さ、人を信用できない弱さを恥ずかしく思ったほどです。笑
最後まで観た今となっては、
これはこの二人だからこそできた選択なのだなと納得できるオチになっていることがよく分かります。
正直、本作はホラー映画としての楽しみ方はまったくできません。
後で原因が悪魔だと分かるのではなく、初めからもう悪魔で確定していますし、その割に悪魔のドアによって引き起こされるホラー演出は2、3回くらいしかないです。
家のクローゼットのドアにしてしまうので、その瞬間ドアの存在感も薄くなります。廊下の途中だし。
森にポツンと置かれていた時のほうが輝いてたぜ、ドアよ。
とドアに同情したくなります。
しかし、本作は「「最後まで見るべき映画」」であることは間違いありません。
さして盛り上がりのなかったストーリーの最後の最後で、オリジナリティを爆発させてくれます。
B級ホラー映画はこういうのがあるから面白いんだよなあ。
以下、ネタバレあり感想
ネタバレなしでは魅力をこの映画の魅力を伝えきれないため、ネタバレありでの感想になります。
と言っても、「オチは結局どうしたのか」には触れませんので、安心してください。
気になる方は、実際に観てしまったほうが早いでしょう。
黒人エクソシスト
本作で特筆すべきなのが、裏主人公と言ってもよい、黒人エクソシスト・ユライヤ。
ユライヤは、耳が聞こえないらしく、エヴェリンたちとは手話で会話します。
声を発しながらの手話なので、お互い無言ということはありません。
ただユライヤの発音や発声が非常に独特なので、もしかしたら本当に耳が聞こえない役者さんなのかも。
役者層が非常に厚いアメリカなら大いにあり得ますね。その意味でもすごいです。
ユライヤのユニークさは、『ポゼッション』のエクソシストに匹敵するほど。
能力で言えばはるかに上でしょう。
なぜなら、この映画本編中では誰一人死なないのです。
こんなホラー映画見たことありません。
ただのエクソシストものに終わらない
ここまで長々と悪魔と語り合って取引・契約するエクソシストものは初めてでした。
ユライヤがどうせ呪い殺されるんだろ?
と思っていたら、最後まで淡々と悪魔と夫婦の仲介役をこなしてみせます。
大抵のホラー映画では、悪魔の逆鱗に触れて、無残な死に方をすることが多いエクソシスト。
自分の身を犠牲に依頼人を助けるのが定番です。
しかし、ユライヤは全く取引などする気のなかった悪魔と取引までこぎ着け、イーデン親子を助けつつ現状最善の妥協案である契約をさせてしまいます。
本作は(作中では)誰も犠牲にしないし、ケインも夫婦も無事に扉の先の世界から帰還させるのです。
ホラー映画に出てくるエクソシスト対決でも上位に行くのではないでしょうか。
ユライヤなら、『貞子VS伽椰子』でバケモンにバケモンをぶつけることなく、解決してしまえたかもしれません。
おまけにこの件で夫婦から一切の金銭はもらってないはずです。
序盤の家を清めるシーンではお金をもらってるシーンがありましたが、
ラストのお祓いでは、その場で解散していたし二度と会わないようにとも言っていました。
無償で悪魔と命がけの交渉をやってのけたということになります。
ユライヤ、ちょっと有能すぎやしませんかね。
なぜドア持ち帰ったの?
日本ほど新築信仰の強くない海外では、家や家具のリフォームはごく普通のことだし、
落ちている扉を拾って、自分の家のクローゼットの扉にしてしまう
なんて一見ありえないことをするのもお国柄という奴だと思います。笑
それに、あんなに広い大陸の場合、所有の概念が薄くなりそうですしね。
日本の田舎によくいる、自分の(超狭い)土地を常に監視し少しでも立ち入られると怒鳴ってキレ散らかすような偏屈爺さんはいないのでしょう。
そういえば、日本のどこかの24時間監視体制の監視カメラだらけの神社が最近話題になっていましたね。
境内に入ったり、その神社附近で立ち止まったりすると、すぐさまスピーカーから「不審な行為は警察に通報する!」などと注意されるらしいです。
怖すぎる。ホラー映画超えてるよ、まったく。
…話が逸れました。
ここで、悪魔のドアを持ち帰ったことをエヴェリンだけのせいにするのは大きな勘違い。
何も考えずに観ていると、自業自得だろとなりますが、実際は最初に扉を見つけたのはケインです。
そもそも悪魔にケインが引き寄せられていたために、むしろそこにドアが現れた(認識できるようになった)のかもしれません。
ぼーっと扉を見つめていた時点で悪魔の品定めは終わっていたのでしょう。
(同級生や先生には嫌われて、悪魔には気に入られる。悪魔のほうが優しいのでは?と思わなくもない…)
心霊スポットでよく起きがちな引き寄せの法則ですね。
なぜ夜に行くのか、単独行動をするのか、それは全部そういう空気が流れるから。
なぜかそうしないといけないような気分になってしまうから。
エヴェリンもおそらくそう。
元からクローゼットの扉が欲しかったことも手伝って、そういう風に悪魔に利用されたに違いありません。
悪魔との契約について
こういうオチが予想できない系の映画とは思っていませんでした。
苦痛と子供を好む悪魔が提示する契約書にサインした夫婦。
泣きながらドアから出てくる様子を見て、
「いやいや、一体どんな契約を悪魔と交わしたんだ?」
と非常に気にならせつつ、エピローグに向かいます。
匂わせて想像させるオチではなくて、本当に良かったです。
これは本当に新しい。新鮮で斬新。とにかく予想だにしない契約内容でした。
最後のレッドの覚悟の目もよかったです。
悪魔に魂を売ろうとも、という感じで。
夫婦はケインを(子供のケンカごときで)退学させた学校に一矢報いたし、
悪魔と契約しつつ、Win-Winに終わらせるとは、この夫婦本当にただ者ではありません。
ただ単純に仲がいいだけでなく、目的意識というかケインのためという行動原理がお互いはっきりしているため、ブレがないんですよね。
それがラストに集約されています。
かなり気分が高揚しました。このラスト。
最後まで観て良かった映画
展開的にはずっと平坦で予定調和な感じがしていて、単なるB級ホラーかなと思って何度か観るのを止めようとしたけれど、いやはやこれは最後まで観て良かったです。
何の犠牲も払いたくない、悪者になりたくないという夫婦であれば、このオチはあり得ませんでした。
偽善で終わらない夫婦は、最後まで息子のために体を張ったのです。
異常なほど表現された仲の良さがこうつながるのかと心底感心しました。
ケインが連れ去られた直後はさすがに険悪になりかけた気がしたものの、最後の交霊シーンではすでに元の状態に戻ってますしね。
馴れ合いじゃれ合いの仲ではないために、早急に関係修復を図れるのでしょう。
ホラー映画に登場する人物とは思えないほど、人間がしっかりしています。
この映画だけではもったいないくらいです。
ゲームでよくある強キャラ感を放って現れる前作主人公みたいに、どっかの映画で登場しないかなあ。
ユライヤを主人公にすれば、余裕で続編作れそうなんですけどね。笑
作ったとしても『シャイニング』続編の『ドクター・スリープ』みたいになりそうですが。
『トビラ 魔の入り口』は未知の映画体験を味わえる貴重な映画
苦痛や恐怖を求める悪魔に対して一体何を捧げるのだろう。
自分の命とか体とかだったら、息子と一緒にいられなくなるから契約とは異なるしな。
一緒にいられるけど、目が見えなくなるみたいな感じか?
いや、ほんと、どんな契約したんだ?
とあれこれ考えているところで、あのラスト。
「これは予想できなかった!すごい!」に加え、
「そう来たか!やるじゃん、イーデン夫妻!」という驚きと高揚感を味わえました。
振り返ってみると、提示される情報量に過不足がないのもポイントですね。
最初に森の中にドア。
DIYする夫婦。
学校に馴染めない息子。
その他会話や展開においての情報量。
どれも無駄がありません。
『トビラ 魔の入り口』はB級だけど名作です。B級の中の名作です。
今後、“ドア”から連想される映画がシャイニングではなく、本作になるかもしれません。
ホラーファンはぜひ観てみましょう。
以上、『トビラ 魔の入り口』の感想(評価・レビュー)でした。
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