感想『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』~その家には止むことのない怨嗟の声が木霊する~

『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』感想評価レビュー

近年稀に見る良質ホラー映画『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』(原題:Echoes Of Fear)の感想です。

ジャケットの「」と「」が赤背景で強調されていることに気づけば、ホラーファンは瞬時に察しが付くでしょう。
そう、ジャパニーズホラーに影響を受けた海外ホラー映画です。
階段を降りてくる化物の構図といい、ちょっと意識しすぎなくらい?

(まあ、「呪いの怨恨」は日本版タイトルにしか付いてないし、ジャケットもほぼ捏造レベルですが…)

「分かってる」シーンのオンパレードで、1時間半存分にホラーを味わえました。
こういうのを待ってた!と言いたくなること間違いなし。

最近、まともなジャパニーズホラー映画なくね?嘆いている方にぜひおすすめしたい映画です。
また、ホラー好きだけでなく、サスペンス・ミステリー系が好きな方も気に入るだろう展開となっています。

以下ネタバレを含んでいる恐れがあるので、興味がある方はいますぐ観ましょう(Amazonプライムにあります)。

▼視聴はこちら

呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー(字幕版)
その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか… 突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備を...
スポンサーリンク

あらすじと概要

あらすじと簡単な作品紹介をします。

その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか…

突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。
しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備をすることに。家を修理している間、アリッサはすぐに奇妙な出来事を経験し始める。家の周りで起こった行方不明者、部屋の中で聞こえる内線マイクからの雑音、シャワーから流れる黒い水、そして誰かに常に見られている視線…。
この家には“何か”が潜んでいて、祖父は死ぬ前に何かを見つけようとしていたようだ。

彼の意志を継ぎ、アリッサは祖父の遺品からその謎を友人とともに追い始めるのだが…。その“何か”は彼女たちに迫っていることを知る由もなかった。

引用:Amazon作品紹介

呪怨と同じく、「家が呪われている系」です。
とは言うものの、さすがに日本版タイトルとジャケットは露骨すぎます。センスがありません。
この【事故物件】…完全アウト!! 笑

制作者からそういうジャケットにしてくださいと依頼を受けたのならまだしも、うーん。
リスペクトやオマージュとパクリの違いが分かってないからこんな無恥な宣伝の仕方をするんだろうなあ。

本作を観たらわかりますが、外国人のほうが日本よりよほどジャパニーズホラーをリスペクトしていますし、理解があります。
ここ何年か(十数年?)の日本ホラー映画の転落ぶりを見かねて、「日本人が作らねえなら俺らが作ってやるぜ!」という気持ちで制作したのではないかと思えるほどです。

それに、ただのリスペクトには終わりません。
ジャパニーズホラーの影響を受けていることが分かる良さを出しつつも、きちんと独自性(海外らしさ)を発揮させています。

だからなおさら、日本版の寄せ過ぎなジャケットとタイトルが癪に障るんですよね。
昨今の苦し紛れの“日本アゲ”を見ているような気分がして。

ちなみに元(海外版)のジャケットはこれです↓↓

『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』海外版ジャケット

観たくなるのは間違いなくこっち

ほんと、センスありますよね。もちろん日本版とは違って、内容に即したデザインになっています。
日本版は気持ち悪い欲が出すぎなんですよ。だからホラーに変なのが集まる。
日本版タイトルとジャケットにセンスが皆無なのは今に始まったことではありませんが、いくらなんでもねえ。

別Ver.

『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』海外版ジャケット2

こっちもいいですね。これならわかる人はわかる良いジャケットなのに、なぜこれを使わないのか…

ジャパニーズホラーをリスペクトしてるかどうかは、実際に観ればすぐわかりますし。
そこを強調する映画ではないことも、それがなくても作品として面白い完成度になっていることも明らかです。

にもかかわらず、“自分”を出さないと気が済まない。
せせこましいというか、恩着せがましいというか、みみっちい。とにかく俗物的で気持ち悪い。
日本版からはそんな印象を受けます。


さて、ここまでで興味を持てた方は確実に楽しめるはずですので、驚きを減らさないためにも今すぐ観ましょう。

どうしてもネタバレを含んでしまうので、だらだらと前置きを並べました。
以下からようやく感想に入ります。

「怖がりたい」人の視点ではなく、あくまでホラー映画を見慣れている人の視点なので、「面白い」の定義が通常と異なることに注意してください。
(そもそも「怖がりたい」人がこの感想にたどり着くことはないでしょうけれども)

ネタバレが嫌な方は読まないほうがいいです。ネタバレするともったいないですからね。

▼視聴はこちら

呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー(字幕版)
その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか… 突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備を...

楽しめた&気に入った点と所感

ネタバレ注意です

次から次へと霊現象が起こる

本作『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』は、影響を受けているだけあって日本的なジワリとした恐怖演出が巧みですが、焦らしが少ないことも評価ポイント。

来る!と思ったところでほとんどの場合、来ます。
不必要なタメがなく、次から次へと驚きを仕掛けてくるのです。

「ここはまだ出さない」と「もう出すタイミングだ」の区別が実に的確。
ホラー特有の出し渋りがありません。肩透かしなくテンポよく恐怖演出を味わえます。
あまりにもリズムが良いために、「これもう終盤入ったかな」と思ったら、「まだ半分しか経ってないのか!」と驚いたほどです。

最初のほうにポンポン出しすぎると後半は慣れてきて飽きさせるリスクもあるのがホラーの難しいところ。
しかし、本作はやはりそれも織り込み済みでした。本当、分かってますね。

古い日本家屋ほどの恐怖感はないものの、郊外のとっ散らかった無人の家には、得も言われぬ不気味さがあります。
家の構造的に想像の勝手が利かない(日本人からして見慣れないつくりの家で逃げ道を想起できない)不便さも手伝って、迫りくる数々の霊現象を楽しめました。

主人公の不釣り合いな「声」

主役アリッサの声が海外では珍しいほどの「アニメ声」です。
顔から声だけ浮いているように聞こえます。一瞬、「吹き替えだったかな?」と錯覚するくらいに。

終始違和感があり続けたものの、視聴後あらためて考えてみると、適役だった気がしてきました。
場の雰囲気とか映画の内容にそぐわないからこそ、その不和が恐怖を醸していたのでは、と。

頼りなさげな不安感、聞いているだけで不安になってくるような声が、心の揺らぎを誘発する要因になり、そこに乗じて霊現象が付け入ってくる。
という巧みな恐怖演出システムを作り出していたのかもしれません。

明らかに大人の顔なのに、幼い子供のように感じる声が聞こえてくるのは、
たとえるなら、デパートで母親におもちゃを買ってもらって喜びはしゃぐオッサンを見ている状態に近いです。

そりゃ当然、不安になりますね。
あ、いや、アリッサ役の人がそのオッサンに近いと言っている訳ではありませんよ。もちろん。

そういう生理的嫌悪感は、単なる驚かせシーンには出せない、「日本的な」じめっとした恐怖に結び付きます。すなわち、ジャパニーズホラーを十二分に理解していないとできない人選だったのだと思い至ったのです。

さすがと言う他ありません。

怨霊のせいだとミスリードさせる展開

あまりにも前半からバンバン霊現象が起こるから、後半息切れするじゃないか?と不安になっていましたが、そう来るか!と感嘆しました。
この流れで人が犯人だとは思いませんよ。

MISSINGのポスターが貼られてある時点で鋭い人は気づくかもしれませんが、
それよりも祖父の人間性や両親の存在がないこと、祖父が探してたものに意識が行ってしまっていました。

ましてや呪怨をよく知る日本人ならなおさらそこが呪われた家だと無意識に思い込みますからね。
このミスリードは本当にすごいです。日本人を嵌めるためかとさえ思うほど。

まあ、そんな刷り込みがされてるのは一部のホラーファンだけでしょうけども…。
(あと、日本版のタイトルとジャケットのせい)

展開が異様に早いことに違和感を覚えていても、後半にこの真相を用意してあるのは予想外でした。褒め称えたいです。
日本版のミスリードは抜きにしても、ジャパニーズホラー感に満足せず、ならではの展開を持ってくるとは。
最初の被害者となる祖父が悪人側だとは誰も思わないですしね。

霊と殺人鬼を上手く違和感なく同じフィールドに出せるのはけっこうな技術が必要だと思います。
ホラーに対する理解が深くないと到底できない芸当。
殺人鬼が出た後もホラー感を失わせず、幽霊を出したままでも違和感なくまとめたのは、本当に賞賛するしかありません。

ホラーとミステリーを適切なバランスで繰り広げてあるこの構成は、新しいホラー映画のスタンダードとも言えるのではないでしょうか。

(ホラーとミステリーの融合は小説にはけっこうあるんですけどね)


ひとつだけ残念だったのは、登場人物が少なすぎること。
確かに途中までは怨霊のせいだと信じ込んでいても、害をもたらさないことが分かると、察しが付いてしまいますからね。
ホームパーティに呼んだ人ともう何人かと会話していれば、候補が定まらなくてより面白かったでしょう。

最後の憎悪の顔

MISSINGのポスターと交互に必死で首を絞める顔が映し出される演出は本当にお見事。
憎悪の感情がうまく表現されていました。

あの憎悪の顔は憑依されていたから?それとも?

憑依でなくとも、アリッサが彼女たちの無念を誰よりも理解していたのは間違いありません。
生前の姿に戻るラストも無念が晴れた描写としてシンプルながらも程よくカタルシスを感じられました。

結局、幽霊って感情なんですよね。
人の感情から生み出される存在。その感情を紐解いてあげないと解決はしない。

残酷なシーンや驚かせることばかりに拘泥したホラー作品が総じて駄作なのはそれを分かっていないから。
ホラーの本質は恐怖そのものではなく恐怖を感じる心にあるのです。

本作はそれをきちんと分かっています。

それに、このシーンの「自分の身を守るために相手を殺してでも抵抗する主人公」は、日本とは異なる欧米の女性らしい展開。
おそらく日本(アジア)の映画だと、怯えて震える彼女のもとに彼氏がギリギリで助けに行くというストーリーだったでしょう。

ここで男が役に立ってしまったら、作品および霊の存在が意図するものとこれまでの主人公の奮闘が台無しになりますからね。

これらも当然分かっているからこその「最後の憎悪の顔」の演出。
全体的にジャパニーズホラーをリスペクトしつつも、それだけに終わらない独自性が光る名シーンです。

このシーンで私は本作を名作だと確信しました。

呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー(字幕版)
その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか… 突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備を...

部分部分の個人的解釈

以下はシーンごとの個人的解釈です。考察っぽい何か。

シャワーシーン

ホラーには定番のシャワーシーン
これね、悪霊的なのがいるとわかっていても、それでも、ホラーの主人公はシャワーを浴びなきゃならんのですよ。
省いてはならない伝統的所作に近い要素。

ホラーに対して実に造詣が深いことが一発で分かります。このシャワーシーンで。
さすがに洗髪中に別人の手に触れるなんてことはありませんでしたが。

なぜ隣の爺さんを殺せなかったのか

上述しているように、霊は人の感情から生み出される存在。
だから、一般的な感情を持ち合わせていない真正のサイコパスには霊障が効かないのです。

わずかでも良心があるから、そこに霊は訴えかけてきます。
疑心や不安、焦燥感や後悔。

孫のアリッサをきっかけに、サイコパス強度が落ちたのでしょう。
そのため、霊はおじいさん(アリッサの祖父)を殺すことができた。

しかし、隣人の爺さんはおそらく生涯独身。
身寄りもなく、人生を通してサイコパスであり続けたに違いありません。

ゆえに、霊の力が及ばなかったのです。
物理で対抗するしかないのです。

理不尽な存在である怨霊(今回は怨霊ではないですが)は、
理不尽に殺されたからこそ、理不尽そのものとなり、理不尽に不特定多数の人間を呪い殺す。

それが呪怨やリング、その他、ホラー作品の理不尽な霊という存在。

しかし、その理不尽な存在であるはずの霊が、
理不尽の元凶となる殺人鬼に対して無力なのは、それこそ理不尽さを感じて、この世の不条理を嘆かずにはいられません。

デイビット爺さんが後半、地下通路で霊を認識したのは、計画が狂い予定外の殺人を犯してしまった動揺から隙ができてしまったためだと推察します。

この世の「冤罪」も人の道徳感情から生み出されているという説もありますし、
感情があるから長い歴史の中で人はずっと右往左往・周章狼狽しているんでしょうね。

Bitly

欧米人が恐れるのはやはり人間

本作を観て、やはり欧米人が怖いのは殺人鬼か悪魔だけなのだなと改めて感じました。
怨霊や悪霊という概念はないのかもしれません。(全部悪魔が原因)

正当性があれば、人を殺しても罪の意識に囚われない率は、日本人よりはるかに高そうです。
サイコパス率も欧米人では4%、アジア人は0.1%というデータもありますし。

とはいえ、日本にも1000人に1人くらいはいるのです。
現に、一つの家で連続大量殺人というのは、つい最近日本でも起こりました。
そんな事件がフィクションではないんですよね。

並の人間では到底想像さえしえないことを平気でやってのける異常者は案外そこら中にいます。
あなたの隣で微笑む笑顔の素敵な彼は大丈夫でしょうか?

「事実は小説よりも奇なり」
これは現実を賛美する定型句ではなく、ただの皮肉だと私は解釈しています。
お前らが生きている世界は、ホラー映画よりもホラーだと。

これももはや周知の事実になっていると思っていたのですが、
まだまだこの社会に希望を抱いている、未来があると思っている世間知らずがうようよいることに驚きます。
そういう人間に限って、現実が見えている常識人と思い込んでいる節があるからタチが悪い。
お前らの常識はせいぜいこの数十年で作られた程度のものにすぎないのに、何を偉そうにしているのだろう。

なぜホラーなのか。なぜホラー作品が重要なのか。
私が常々訴えている霊の存在意義にその答えはあります。

死者を敬い、畏れよ。死を見て見ぬふりするな。忌避するな。
そうすれば自ずと生者を大切にする社会になるはずです。

ホラー映画よりもホラーな世界を変えるためには、ホラーおよび幽霊の存在は欠かせません。
だから、ホラー映画を観ましょう。
(はじめに殺されるのがカップルであることにも意味があるのです)

呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー(字幕版)
その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか… 突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備を...

最後に:『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』

本作『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』を予備知識なしで観れたのは幸運でした。
プライムビデオであなたにおすすめの新着作品で出てたんですよね。
これを掘り出し物と言うのでしょう。

ジャパニーズホラーに飢えているすべてのホラーファンにおすすめしたい映画です。
私が感想を書いている系の映画が好きな人も間違いなく楽しめるはず。

こういう作品があるから、レビュー点数(星の数)はあてになりません。こと、ホラーについては。


以上、『呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー』(Echoes Of Fear)の感想でした。


▼視聴はこちら

呪いの怨恨 エコーズ・オブ・フィアー(字幕版)
その“声”は救済を求める嘆きか悪災の呪いか… 突如、心臓発作で亡くなった祖父が暮らしていた一軒家を祖父の遺言により相続しなければならなくなった大学生アリッサ。しかし、固定資産税が高すぎるため、彼女は新学期が始まる前に祖父の家を売却する準備を...
感想『ドリームハウス』~良質な物語と映像美、真に迫る演技が心にグッとくる~
映画『ドリームハウス』の感想をまとめました。良質なストーリーとハイクオリティな演技、そして幻想的な映像美が合わさった名作です。印象的で切なく悲しくも前向きになれるすばらしい鑑賞後感を味わえます。

コメント

スポンサーリンク
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました